大好きだから大丈夫

最初で最後の婚外恋愛(ただいま遠距離)

お嫁さんになった日

彼の単身赴任が終わり

空っぽになったお部屋を出る、その日


彼は、その日だけ、一日だけ

私をお嫁さんにしてくれた


と、文字にしてみたら

やっぱり泣いてしまう


もう、二ヶ月が過ぎようとしている

その日の、大切な思い出





はじめのうち、彼は

「お前は、悲しくなっちゃうから来なくていいよ」

と言っていたけれど、

「私も一緒にお掃除して、ちゃんとお別れしたい、お部屋に」

というと、喜んでくれた



ふたりが再会してからの、ほとんどの時間を過ごしたお部屋


泣いたり、笑ったり、食べたり飲んだり、話し合ったり、愛し合ったり


私が後から入る日は「おかえり〜」

彼が後から入る日は「ただいま〜」

と、彼が必ず言ってくれた



ふたりだけの、大切な、思い出のお部屋との、お別れの日




前日の朝の彼からのLINEには、修繕の業者などが出入りする時間が詳しく書いてあり、その最後に

「お前を『俺の家内です』って言うのがうれしくて」


酔っていないと気持ちを出さない彼から、こんな言葉がもらえて、うれしすぎて、彼が遠くへ行ってしまう悲しさを忘れてしまえそうなくらい


夜にも、酔った彼から

「大好き」

「早くきて」

「ちゅ〜したい」

「早く会いたい」

「オレの家内になって」

と夢みたいなのが届く


あのお部屋から、この街から、自分がいなくなることを、私が悲しまないように、と、もしかすると思っていてくれたのかな



当日、私は早朝も早朝、新聞配達もまだ走っていないくらいの時間に、彼のお部屋に向かった


「絶対に起こさないから」と約束していたので、そーっとお部屋に入り、寝息を立てている彼の横に

そーっと、そーっと


「ん〜〜〜、、、ん??来たの?

バカだなぁ、お前、まだ暗いじゃないか、何時だ?」


起きてしまった

寝起きの彼は、おしゃべりで、特に飲んだ翌朝は甘えん坊で、本当にカワイイ


私が無理やりくっついても、

「酒臭いし、汗臭いからヤダ」

「まだ寝るから〜」

と言うので

「じゃああっち向いて寝なさい」

あっち向いた彼の背中に抱きついて、顔を埋めて、においをかぎまくった


大好きな、彼の背中


大好きな、彼の香り


大好き



泣きそう



今日で、このお部屋は最後


早朝に、愛し合った



彼の愛情


たくさんたくさん感じて


幸せ


幸せすぎるよ



外が少しずつ薄明るくなってきた頃

彼が言う


「俺の顔、見える?

見て

ちゃんと見て

覚えておいて

俺も、覚えとく

絶対忘れないから」


彼の顔

彼の体

彼の吐息


忘れないよ

忘れられるわけない



私を、覚えておいてね


忘れないで


こんなに愛し合えるの

あなたとだけだから




私はそのまま眠ってしまい、目が覚めるともう外は明るくて、彼はもうバタバタと動いていた


「寝てていいよ」

と言ってくれる、優しい彼


私もすぐ起きて、ふたりで本気のお掃除、荷造り



途中、何人か業者の人が来ると、誰にでも気さくに話す(そういうところが本当に大好き)彼は

「単身赴任だからね、時々家内が来てくれて助かります」

なんて、わざと「家内」を使うセリフを言っては、それを聞いてニヤニヤがとまらない私の顔を見て、満足そうな顔をしていた


幸せだな

本当に幸せ



そんな、幸せを感じていた「家内」も、お部屋がどんどん空っぽになっていくにつれて、さみしい気持ちの方が大きくなって


いよいよすっかり空っぽになり、あとは、彼と私と、ふたりのカバンだけになった、カーテンもない、そのお部屋で、鍵を返す管理会社の人が最後のチェックに来るまでの数分、壁にもたれて並んで座って、話をした


まだたくさん話したいことありすぎるのに、何を話せばいいのかわからない


私「こんな空っぽのお部屋、やっぱりイヤだなぁ」

彼「思い出作りすぎちゃったか」

彼「でも、向こう行っても、お前のこと思ってるよ」

彼「仕事中もずっとってわけではないけど」

彼「忘れないから」

彼「大丈夫だから」


私は泣きながら、うなずいて、彼の言葉を聞いていた


お引越しの日に「家内」が泣いてたらおかしいので、なんとか抑えて



管理会社の人がチェックに来た時

「いつもお世話になってます」

と、最後の「家内」を味わっておいた


チェックしてもらう最中、お部屋の真ん中に立ち、四方に手を合わせて、小さな声で

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

と言っている彼の姿が、また、たまらなく愛おしくて


また溢れそうになる涙をこらえながら

私、なんでこの人の本当の「家内」じゃないんだろう


なんて考えていた




鍵を返すのは後でもいいと言われ、管理会社の人がお部屋を出て行くと


ふたり、見つめ合って、抱き合って


私「すっっっっっごい楽しかったよ」

私「すっっっっっごい幸せだったよ」

彼「俺も」

彼「お前にはさんざん振り回されたけど」

私「ありがとうね、本当にありがとう」


抱き合う腕をゆるめて、顔を見合わせると、ふたりとも泣いていた


「あ〜〜、ダメだダメだ」

と逃げる彼


彼「よし、ラーメン食いに行くか」

私「ラーメン、ラーメン」



最後に、玄関で、いつものようにハグとキスをして、いつものようにお部屋を出る


もう、二度と入ることのない、そのお部屋とのお別れ



ふたりだけの思い出を

ずっと、まもってくれて


ありがとう




そのあと別々の車で、ラーメンを食べに行く道中、前を走る私が、何度も振り返っては彼に手を振って


別々の車でも、ふたりだとこんなに楽しいドライブ



ラーメン屋さんでは、カウンターでふたり並んで座り、もしかして知り合いに会うといけないからと、彼が友達モードで話してくる


彼「どう、最近は、元気だったの?」

私「本当に久しぶりだねぇ、最近どうしてるの?」

彼「最近ねぇ、いい女に会ってねぇ、そいつが本当に面白いヤツでねぇ、最高なんだよ」

私「ダメダメダメ、その話ダメ」

彼「あ〜、ごめんごめん」


私の泣き顔に気づいて、話をやめた



ラーメン、おいしかった

彼と一緒に食べると、なんでもおいしい


お店を出る時、先に出た彼の後ろ姿を見てたら、思わず背中を平手打ちして

「がんばるんだよ、お父さん」

(この時、彼、泣いてたって、後から聞いた)



そして車に乗る前に、笑顔でかたい握手をして、笑顔のまま

「またね!」

とそれぞれの車に乗り込み、それぞれの道へ



途中、彼がいたあのお部屋と自宅をつなぐ、いつもの道に差し掛かると


「もう、この道を走って行っても、彼には会えないんだ」

「もう、この道を、彼に送ってもらうことはないんだ」


と気がついて



涙がこみ上げてきたので、途中で車をとめて


あるだけの涙を全部出して




帰宅後、彼にLINEを送った


「着きました

大丈夫です


私の一生でいちばん

楽しくて

うれしくて

悲しくて

がんばった


最高の10ヶ月


一緒にいてくれて

ありがとう


絶対に、一生忘れません


これからもよろしくね」





お別れじゃないからね



もう、ずっと離れないよ



たくさんの思い出のおかげで、私は、ひとりでも、ひとりじゃない



ずっと、あなたと一緒にいるって

決めたから




あなたのことが、大好き